頭の中がカユいんだ(1986年)

 中島らもを読み返している。当時のサブカルまたはアングラ的な雰囲気は肌で分かりようもないが、文章は今でも面白い。分からないと言っておいてなんだが、80年代から90年代のいわゆる露悪趣味というか、反道徳的な言動へ積極的に価値を見出していた空気感が、ちょっとだけ伝わってくる。

 

 前半は中島の日常を脚色したノン(中島曰く「嘘ばっかりの」)・フィクション。バース選手のかぶりもので中学生を殴ったあと、酔っぱらいにバースを押しつけてみたり、会社抜け出してサウナで昼寝してみたりと、好き勝手やっている。どこまで本当かは分からない。あとがきに書いてあるとおり、きっと大方嘘なんだろう。

 

 後半は短編が3本。「私が一番モテた日」はほぼエッセイに近い書きぶり。中高時代異性から相手にされなかった男性の言説なんて吐いて捨てるほどあるけど、成人してから振りかえったものとしては、もっとも誰もが思うことを活字にできていると改めて思う。会田誠の作品への言及で山上たつひこの漫画に触れているものって、ぜんぜんないよね。

 

 「クェ・ジュ島の夜、聖路加病院の朝」もうまい。場当たりのユーモアに身を流したかつての行為を振りかえって、因果を見出した時に感じる面白さを、創作へ落とし込めている。間違っていないことやコレクトネスを前提とする現代では、とうてい思いつかないような話。