今夜、すべてのバーで(1991年)

 中島らもを読み返している。

 説明調、説教調がやや混じるところが小説としては手抜かりと見えなくもない。ただそれは捉えかた次第で、アル中の屁理屈な側面と考えれば生々しさを醸しだす。

 

 アルコール依存症の治療の描写において、システム論を取り入れたケアの発想が援用されていた。80年代ぐらいまではシステム論的思考が系の文理を問わず引用されていた。そういう懐かしい時代の空気を、こういうところから感じた。

 

 ガダラの豚や人体模型の夜みたいな捻りはない。ないからこそ、人間造形のうまさが際立つ。紋切り型のようにみえる人々でも、安っぽさではなく真実味を感じられる。

 

 そばと天ぷらが食べたくなり、ビールと冷酒を呷りたくなる一冊。