リズと青い鳥(2018年)

 もう6年前。

 キャラと出してくる道具の対応関係がうまい。あとみぞれで大きな声出る。

 みぞれがリズで希美が青い鳥と思いきや逆でした、というのはやはりうまい。構造は複雑ではないが、見せかたが丁寧なので強い感銘につながる。無駄な要素がほぼない。

 それでいて映像も綺麗だ。作中作と本編を重ね合わせるのはズルいと言ってしまえばまあそうかもしれないけど、風呂敷広げて畳めないよりはずっとよくて、90分という時間も相まってものすごく贅沢な作品に仕上がっている。

 

 キャラの関係をどう効果的に見せるか、という点で、かなり参考になる作品。

 

劇場版響け!ユーフォニアム~届けたいメロディ~(2017年)

 今年の4月からNHKで3期が放映する前に、ユーフォをおさらいしようと映画も含めて見返している。

 

 これは2期の「総集編」だが、ダイジェストというにはだいぶ手が込んでいる。意地悪な物言いをすれば総集編としては偏りがあるけれど、それは揚げ足取りで、まっとうな評価をするなら再構成でこれほどうまい光の当てかたもないだろう。

 

 小笠原先輩に照準したこの映画は、先輩周りの話を整理したいなら本編より先に見てよいぐらいの中身になっている。狂言回しとしての久美子をとりまく人々に、しっかりと背景があると分かるよい話。そう思うと合宿や麗奈のやきもきといったエピソードはしっかり後景化されていて、物語の配分を調整できるほどに練られた話なんだと思う。

永遠も半ばを過ぎて(1994年)

 中島らもの作品。睡眠薬とアルコールを飲んだ写植屋が、知らぬ間に散文詩のような文章を打ち、高校で同窓生だった詐欺師が文章をネタにして一儲けしようとする物語。間違いではないあらすじだが、物語が動くのは2/3を過ぎたあたりで、それまでは別筋のストーリーが進む。

 

 伏線らしきものもあるにはあるが、後半になって唐突に進んだ感は『ガダラの豚』よりもある。連載小説だったから最初にオチは考えていなかったのかな。男女の絡みも無理矢理ねじ込んだきらいがあって、ちょい微妙だった。これなら『すべてのバーで』のほうが読後感はよかった。

今夜、すべてのバーで(1991年)

 中島らもを読み返している。

 説明調、説教調がやや混じるところが小説としては手抜かりと見えなくもない。ただそれは捉えかた次第で、アル中の屁理屈な側面と考えれば生々しさを醸しだす。

 

 アルコール依存症の治療の描写において、システム論を取り入れたケアの発想が援用されていた。80年代ぐらいまではシステム論的思考が系の文理を問わず引用されていた。そういう懐かしい時代の空気を、こういうところから感じた。

 

 ガダラの豚や人体模型の夜みたいな捻りはない。ないからこそ、人間造形のうまさが際立つ。紋切り型のようにみえる人々でも、安っぽさではなく真実味を感じられる。

 

 そばと天ぷらが食べたくなり、ビールと冷酒を呷りたくなる一冊。

全プリキュアLIVE(2024年)

 2日目夜(1/21)最終公演に参加。ハードル高めに臨んだけど、期待以上の内容だった。

 

 セトリは正確に覚えていないのでざっくり。最初にオープニングメドレーで各作品をワンコーラスずつ。遡っていく感じ。初代はフルだったかもしれない。マックスハートはアンコール後のオーラスでフルコーラスだった。いい締めくくり。マックスハートで〆るのは昨年秋のひろプリLIVEもそうだったと記憶している。

 あいだにちょくちょく声優のコメントを挟む。キャスト全員参加していたのはスタプリ・ヒープリ・ひろプリ。あとはピンクキュアのみで、例外的にマリンの水沢さんが出ていた。かなり盛り上げてくださっていて、どんなところでもマリンの存在が不可欠だなと再認識。

 

 メドレーのあとは朗読劇だったはず。そのなかでヒープリのボーカルアルバムに収録されていた曲(Ready Steady→プリキュア!!と思う)とスタプリのTwinkle Stars(映画主題歌)。わたしたちは星出てきたときはね、感動しましたね。

 

 劇場版Fの楽曲2曲を挟み、エンディングメドレー。全部はやらなかったかな。イェイイェイイェイは本当に誰もが振りを覚えていて「あの頃」を思い出した。個人的にシュビドゥビとはぐプリ後期、あとスタプリ聞けて元は取りました。

 

 アンコールでいきものがかりが2曲。出ることは事前に発表されていたけど、いざ実物を目の前にすると感動というか驚いた。周りの反応みるといきものがかりは幅広い年齢がピンとくるグループとして、かなりよい人選だったと思う。すでに2年前ぐらいに鷲尾Pから声をかけられていたそうだ。あとは最近の作品加えた大集合。どこでやったか忘れたけどプリキュアモードもやっていた。最後は上述の通りマックスハートOP。全編通してコールが本当に楽しい演目だった。もう今年の発声すべて終えた。

 

 スタプリモクで来たので、そこは見たいもの見せてもらいました。あの演者そろえるっていう意味でも何度もやるのは難しいかもしれないが、またやってほしいね。

ガダラの豚(1994年)

 本当に面白い。検索するとインターネットのあちこちでそういう感想が見つけられるとおり、本当に面白い。虚言でも過言でもない。

 タイトルはマタイによる福音書8章の一節からの引用。エピグラフとしても使用されているが、しょうじき文面だけでは真意が分からず、ググって解説を探した。昨今は教会がホームページで説話を載せてくれていて、いい時代だ。

 

8章28~34節 - 長野佐久教会ホームページ

 

 どうやら要点は3つ(もっとありそうだけど割愛)。

 1.イエスの行いの結果は大雑把にいうと悪魔祓いすなわち呪術がもたらすものに類型できるが、イエスは複雑な過程を経ずに遂行した。

 2.悪霊を豚へと逃がすストーリーをもって、イエスが死の支配から人々を解放する力を持つと伝えている。

 3.しかし異邦人であるガダラの人々にとって、イエスの力よりも家畜である豚のほうが大事で、この話においてはイエスに去ってもらうほかなかった。

 

 本作は呪術が大きな鍵を握っている。呪術というよりは、マジックや超能力など機序がようわからん行為全般というべきしれない。冒頭で新約聖書を引用しているが、むしろキリスト教をはじめとする西洋の文化や技術、それらに根差す思想や意識は向こうにまわされ、非西洋の文化、特にアフリカの文化が全面的に押し出されている。

 ガダラの豚の一節は、キャラクターたちが直面する不可解な出来事へとつながっている。キャラクターはイエスか、豚か、悪霊か、それともガダラの民か。あまりエピグラフに肩入れするのも読みを狭くさせるが、そう考えると敵味方とは異なる観点で作品を読める。具体的説明は長くなるので脳内に留めておきたい。

 

 『人体模型の夜』同様、先に出した要素や通底する題材の絡め方がとてもうまく、また各パートの描写も映像を見ているようで、エンタメ小説の白眉として選ばれてよい作品だった。長いし前半に比べて後半はややとんとん拍子のきらいが否めないけど、総じて無駄な場面はない。天気の悪い休日や金曜日の夜におすすめ。

人体模型の夜(1991年)

 引き続き中島らも直木賞候補に挙がった作品。受賞はしていない。

 体の各部位にまつわる短編集。コンセプトアルバムのような感じ。コンセプトアルバムよろしく、バシッとはまっているものもあれば数合わせぽい作品もある。ただ、完成度のアベレージは高い。

 

 当時の選評は以下のリンクを参照。

 中島らも(なかじま らも)-直木賞候補作家|直木賞のすべて

 簡単にまとめると、物語の作成能力は高いが、衒学的かつ綺麗にまとめすぎるきらいがあると各人触れている。評者の言葉に異論はない。田辺聖子は肯定的な意味合いを込めて、直木賞向けではないみたいな言及をしている。実際、これが直木賞を受賞した世界は考えにくい。ライブハウスメインで活動するバンドが、レコ大をいきなり受賞するみたいな(?)。中島は発刊当時、すでにお悩み相談やテレビ露出で有名だったので、完全にそぐわないけどイメージとしてはそう思う。

 

 Amazonのレビューとかを見ても、好きな作品に選ばれているものは三者三様で、射程圏の広い作品集といえるかもしれない。個人的ベストは2本目の「セラフィネの血」。日本人男性が訪ねた東南アジアのセラフィネ島は、楽園と錯覚するほどの豊かな島。しかし、違和感を抱く点がいくつかあって……。男女比や漁の手法、伝承がラストの長老の告白へとつながる。見事な話だ。