駒田蒸留所へようこそ(2023年)

 よくも悪くもドキュメンタリーのような話。若い女性社長琉生がウィスキー復活のために奮闘したり、無気力ウェブメディア記者光太郎の心持が変化する過程の描写は、うまい。後味のいい『ザ・ノンフィクション』みたいな。

 ただ、いましている仕事は本当にやりたかったことなのか、そもそもやりたいことって何みたいなテーマは落とし込めているものの、ストーリーテリングはもう一声といった感じ。火事で倉庫が燃える原因は描写的にどうみても光太郎がへたにスイッチをいじったからなのだが、原因と結果が示されるだけで、そこから想起されてもよい光太郎の変化や、人間関係の変化は起きない。火事の後付け感はなくなっているが、かえって新たな引っかかりができてしまう。火災原因の漏電の発生要因が作中では追究されなかったとはいえ、光太郎許されるどころか罪を問われもせんの? みたいなね。

 設定でいうと琉生の「わかば」のヒットと蒸留所の経営状況の関係とか、同業他社で働く琉生の兄が、実家とはいえ手伝っていいのかとか、ポイントはあるっちゃある。

 

 物語ではなく実話を脚色してアニメ化、みたいな立ち位置と考えればよい話。せっかく創作なのだから、もうちょい見せ方は外連味あってもいい。琉生のテイスティングノートは、そういう意味ではおもしろい。本筋とはあまり関係なかったですが。

 ちなみにWikipediaを読む限り、モデルとなった若鶴酒造の三郎丸蒸留所の歴史が思った以上に参照されているぽい。帰路、久々にウィスキーが飲みたくなり、件の三郎丸の十年明買ってしまった。生活費もうありません。